手形について

手形という言葉は、かつて証文の内容を承認する際に実際に、その手形に手の形を押していたことに由来する。

一時期、近松門左衛門を好んで読んでいた。「曽根崎心中」か「冥途の土産」の作中に為替手形が出てきたように思う。

大きなお金を江戸から大阪に運ぶのは大変だ。途中で盗賊に襲われるリスクもある。なので、まず受け取る金額を江戸でまず為替手形にして、それを大阪で現金に変えていた。果たして近松が名作を執筆していた元禄時代、約300年前は、まだ為替手形に手の形を押していただろうか。

為替手形ではなく、約束手形に話を移す。

Wikipediaによると、約束手形は明治に入り西欧から入ってきたアイデアのようである。

先程の為替手形が空間上の問題を解決する手段とすれば、一方の約束手形は時間軸を先延ばしにする。

個人的に一度だけ約束手形を受け取ったことがある。

法令上、法人は個人に約束手形を振れない、と思う。

当時私は東芝と取引をしていたのだが(実際、そんなことはないけれど)個人の取引はキックバックなど担当者と結託している印象があるので、法人として取引をして欲しいという話があった。

そこで思い切って法人を設立したのだが、まとまったお金に関して約束手形扱いになってしまった。

ちなみに「まとまったお金」などと言うと儲かったような印象を与えるけれど、そうではなく、この場合、僕が作った会社が窓口になり、フリーランスの人たちや印刷会社のぶんを取りまとめていた経緯がある。

話を戻すと、手形は商品券くらいのサイズで、そこに支払い金額と支払い期日が明示されている。

その期日に手形を振り出した東芝に持っていくと、そのお金が受領できる。

手形の支払いまでの期日(支払いサイト)は長い。そのうえ、支払い期日は先方の請求書を受け取った締め日ではなく、支払日から支払いサイトは始まる。

支払いまでの時間が長いので、資金繰りでお金が必要な場合は、第三者にその手形を譲り、そこから現金を得るケースもある。ただし、その場合は支払いサイト後の満額でなく、第三者の利益分が割引かれ金額となる。

逆に第三者は利益を得るが、その変わりに手形を振り出した会社が支払いサイト中に倒産した場合は、元の支払い金額はゼロ円になる。要はリスクの分が利益となる。

現在、全般的に請求から支払いまでの期間は短くなっている。

(うまく説明できないけれど、それは)デジタル化と関係がありそうだし、関係省庁からも、たぶん請求から支払いまで30日以内を目処とするガイダンスが出されていると思う。

そして支払いまでの期日の長い約束手形は来年度末を持って廃止される。長い歴史を持った手形が終焉を迎える。