「1Q84」への30年 というタイトルの村上春樹へのインタビューより。個人的に目を引いた箇所を抜粋させていただく。インタビュー記事の文脈から切りとっているので、もし自分なりに興味があるなら、図書館で読売新聞の縮刷版を読んでちょうだい。(読売新聞 2009年6月16〜18)

「絶対的に正しい意見、行動はこれだと、社会的倫理をとらえるのが非常に困難な時代だ。罪を犯す人と犯さない人とを隔てる壁は我々が考えているより薄い。仮説の中に現実があり、現実の中に仮説がある」

 

「神話というのは歴史、あるいは人々の集合的な記憶に食い込まれていて、ある状況で突然、力を発揮し始める。例えば鳥インフルエンザのような、特殊な状況下で起動する、目に見えないファクタでもある。あるいはそれは単純に我々自身の中の何かかもしれない」

 

「世界中がカオス化する中で、シンプルな原理主義が確実に力を増している。こんな複雑な状況にあって、自分の頭で物を考えるのはエネルギーが要るから、たいていの人は出来合いの即席言語を借りて自分で考えた気になり、単純化されたぶん、どうしても原理主義に結びつきやすくなる。スナック菓子同様、すぐにエネルギーになるが体に良いとはいえない。自力で精神性を高めるのが難しい時代だ」

 

「言語とは、誰が読んでも論理的でコミュニケート可能な「客観的言語」と、言語で説明のつかない「私的言語」とによって成立していると、ウィトゲンシュタインが定義している。私的言語の領域に両足をつけ、そこからメッセージを取り出し、物語にしていくのが小説家だと考えてきた。でもある時、私的言語を客観的言語とうまく交流させることで、小説の言葉はより強い力を持ち、物語が立体的になると気がついた」