カズオ・イシグロの「日の名残り」は、主人公スティーブンスの語りによりストーリィが展開する。
ストーリィには、3つの事がらを見つけ出すことができる。
ひとつめ。
ラストシーンのスティーブンスの喪失感の癒やしについて。このへんは、「多崎つくる」など、村上春樹の小説に継ぐ。
ふたつめ。
歴史の認識について。
後世の歴史の評価は当時の時代の空気感が無視されたものとなっている。当時(あるいは現在と似ているが)民衆主義は衆愚的で何も決められないという批判があった。それに対してイタリアやドイツの行動によって立て直す風潮は評価されていた。
みっつめ。
品格について。
スティーブンは品格について考察し続ける。
品格とは恐ろしさも腹立たしさも挑発も外部のどんな出来事にも動じない職業的なあり方を貫き堪える能力だ。それを脱ぎ捨てるのは、みずから脱ぎ捨てると思うとき以外にあり得ない。品格は生まれ持ったものではなく身につけるための努力をすべき職業的義務である。品格のある当家につくことはその第一条件である。落ち着きにあるイギリスの風景は象徴的にとらえられている。
以上。