「重訳」はピンとこないことばだ。英語では「re-translation」。こちらのほうがわかりやすい。文字どおり、ことばを再び翻訳しなおす。たとえば、スペイン語→英語→日本語というふうに。
ただし、スペイン語は世界中で広くつかわれている。なので重訳でなくとも、スペイン語→日本語のように、わりと、直接訳されるんじゃないだろうか。あくまでも推測だけれどネ。
問題は少数派のことばの対応だ。チベット語を日本語に訳せるひとは、スペイン語翻訳者に比べて少ない、とおもう。どうしても、チベット語→英語→日本語のように重訳になってしまう。そうおもうと、どこか、読んでいて居心地のわるさをかんじてしまうねん。
重訳とは、はなし外れてしまうけれど、「翻訳夜話」(村上春樹 / 柴田元幸)の中から抜粋させていただいた。
「翻訳のクオリティって基本的に三種類あると僕は思っていて、原文のトーンに近いように思える日本語のトーンに再現されているのがベストだとすると、原文のトーンとは違うんだけれど、日本語のトーンとして一貫したトーンを持っている。別のトーンだけれども、とにかくトーンとして一貫しているというのがセカンド・ベストで、最悪なのは、もちろん原文にトーンがきちんとあると仮定してですけれど、日本語としてトーンもリズムもないような訳文ということですね」(柴田)P95