20世紀は暴力死が最も多かった。
この印象は留保しなければならない。
20世紀は他に比べ人口が少ない。これが第一。
第二に、人の認知には「想起ヒューリスティック」(エイモス・トベルスキー&ダニエル・カーネマン)の傾向があること。
「想起ヒューリスティック」とは「人は想起しやすい事柄など、起きる可能性が高いと思ってしまうこと」(p356)で、
本文の主旨で言えば、近い世紀ほど暴力死が多いと思ってしまうことになる。
本書では、16世紀以降の暴力死の指標がグラフ化されている。
僕らの認識とは逆に、暴力死は年代を追うごとに下がっている。
暴力死は不幸の指標になるので、じつは、年を追うごとに人類は幸せになっている。
本書では、暴力による死亡が減少している要因をいくつか上げている。
19世紀の産業革命以降、世界の所得は指数関数的に伸びた。
経済力が暴力の減少を促している。
それなりに説得力があるけれど、残念ながら本書はその説を取っていない。
産業革命以前からから暴力死は減少の傾向にあり、それ以前の印刷技術が大きく貢献しているという。
書籍により違う視点を持ち得るようになったことが暴力死を減らす結果となっていると指摘している。
さらに本書の下巻「善なる天使」(9章)では、暴力死減少の要因となる共感、自己制御、理性を、社会心理学の例を上げながら解説している。