2009年の厚生労働省元局長・村木厚子氏による郵便不正事件、そして2019年に起きたプレサンスコーポレーション元社長・山岸忍氏による横領事件。これらは共に、大阪地検特捜部による強引な「見立て捜査」が生んだ冤罪事件である。
検察側からすれば、これらは日常茶飯事の手法だったのかもしれない。両事件とも、客観的証拠よりも「検察があらかじめ描いたストーリー」が優先され、関係者の供述をそれに合わせさせるという強圧的な取り調べが行われた。前者は「局長の村木氏が部下に証明書偽造を指示した」という構図であり、後者は「社長の山岸氏が部下と共謀して横領した」という図式である。
しかし、この二人が無罪を勝ち取れたのは、決して偶然ではない。そこには、被告人自身の卓越した「属人性(個人の資質や力)」が決定的な役割を果たしている。
村木氏の場合、その勝因は彼女の誠実な人柄と、官僚として培われた緻密な実務能力にあった。彼女は過酷な勾留生活の中でも、差し入れられた膨大な証拠書類を丹念に読み込み、自身の記憶と記録を照合し続けた。この執念が、弁護団による「フロッピーディスク改ざん(更新日時の矛盾)」の発見へと繋がり、検察の証拠捏造を暴く端緒となったのである。
一方、山岸氏の場合は、一代で上場企業を築き上げた経営者としての胆力と、圧倒的な「財力」がカギとなった。彼はその資金力を背景に、元特捜検事のエース・中村勉弁護士をはじめとする「最強の弁護団」を結成した。一般市民であれば諦めてしまうような状況でも、彼は徹底抗戦できる体制(チーム)を構築できたのである。
そして、この二つの事件は司法制度の変遷によって一本の線で繋がっている。
村木氏の冤罪事件は、検察改革の議論を巻き起こし、2016年の刑訴法改正によって取り調べの「録音・録画(可視化)」が義務付けられる契機となった。
それから約10年後に起きたプレサンス事件において、この「可視化」が威力を発揮する。山岸氏の弁護団は、制度によって残された合計100時間以上にも及ぶ取り調べ映像を全て文字起こしし、徹底的に分析した。その結果、検察官が山岸氏の部下に対し「社長の関与を認めなければ会社を潰す」といった趣旨の恫喝や誘導を行い、虚偽の供述を引き出していた決定的瞬間を法廷で突きつけたのである。
村木氏が不屈の精神で切り拓いた「可視化」という制度が、10年の時を経て、山岸氏を検察の暴走から救い出したと言えるだろう。
