「学問のすすめ」は、じつは、学問について、全般には語られてはいない。
現代語訳の訳者(伊藤正雄)の解説は、本書を読む良いガイドとなる。
解説によると、本書の各編は短いながら、明治5年から9年のあいだに書かれている。
そのころ、文部省が設立され、学制が頒布され、
著者の福沢諭吉自身、在野にありながら、教育界にとても大きな影響力を持っていた。
個人的な推測になるが、本書のタイトル「学問のすすめ」は、全般的な内容を表すよりむしろ、この当時の状況を反映させたのではないか。
諭吉は西欧の書物を数多く翻訳している。日本には無かった西欧のコンセプトに漢字を充ててもいる。現在、なにげに使っている言葉にも、諭吉の創作語はあるだろう。
同じく、現代語訳の解説によると、本書は8編までフランシス・ウィーランドという人の「修身論」の翻訳の痕跡が、強く残っているという。
本書は、とくに後半が好きである。
それは、書きはじめた頃より、時間を追って書かれた後半の方が練れていたこともあるし、
また、翻訳ではない自身の、より体重の乗った語りであったに違いない。